五十肩(肩関節周囲炎)について ― まず整形外科、それでも残る痛みに
このページは、五十肩の症状を解説すると同時に、当院の立場をお伝えするためのページです。 事実にもとづいて、できるだけ控えめな筆致で記しています。
当院の見解 ― まず整形外科の保険リハビリテーションを
五十肩の治療は、まず整形外科から始めることをおすすめします。
近年、理学療法の施設基準を満たす整形外科の開院が増え、専門的な運動療法を健康保険(1〜3割負担)で受けられる環境が、以前とは比較にならないほど整いました。 費用と通いやすさの現実を踏まえれば、五十肩はまず整形外科の保険リハビリテーションから始めるのが、お客様にとって最も合理的な選択だと当院は考えています。
なお、はり施術は制度上、五十肩(肩関節周囲炎)が健康保険の対象疾患に含まれていますが、医師の同意書が必要であり、同一の症状について医療機関での治療と保険のはり施術を並行して受けることはできません(併給制限)。 整形外科で治療できる症状について同意書の取得は現実的に難しく、五十肩で「保険のはり施術」という選択肢は実質的にほとんど機能していないのが実情です。 当院の五十肩施術は自費でのご提供となります。
※ 同意書・併給制限の詳しい仕組みについては、別ページ(受領委任の解説ページ)を準備中です。
五十肩(凍結肩)の経過 ― 炎症期・拘縮期・回復期
五十肩は、医学的には肩関節周囲炎と呼ばれ、凍結肩(フローズンショルダー)という呼び方もされます。 はっきりとしたきっかけがないまま肩に痛みが出て、やがて腕が上がりにくくなり、時間の経過とともに少しずつ動かせる範囲が戻っていく ―― という経過をたどることが多いとされています。
一般に、その経過は次の三つの時期に分けて説明されます。
- 炎症期(急性期) ― 炎症による痛みが強く出やすい時期。安静にしていても痛む、夜間に痛みで目が覚める(夜間痛)といった訴えが出やすいとされます。
- 拘縮期(こうしゅくき) ― 強い痛みは少しずつ落ち着く一方で、関節が固まり、動かせる範囲(可動域)の制限が前面に出てくる時期とされます。
- 回復期 ― こわばりが徐々にゆるみ、動かせる範囲が戻っていく時期とされます。
五十肩は、時間の経過とともに軽快していくことが多いと考えられています。 ただし、重症例では改善まで2年程度かかると解釈されることもあり、経過の長さは一様ではありません。 また、痛みの感じ方や痛みへの耐性には大きな個人差があり、同じ時期でも、つらさの程度は人によってかなり異なります。
「肩が痛い=五十肩」とは限らない ― 鑑別が必要な病態
肩の痛みは、すべてが五十肩というわけではありません。 見た目や症状が似ていても、その奥に別の病態が隠れていることがあります。 以下は、整形外科学で一般に知られている、注意が必要な病態と、経過が良好なことが多い病態の整理です。
注意が必要な病態(タチが悪い群)
腱板断裂(けんばんだんれつ)
自然にはつながらない構造の損傷です。放置することで断裂が広がることがあり、手術が検討される場合もあります。
インピンジメント症候群
骨の形状や腱板の機能の問題が背景にあり、原因が解決されない限り繰り返しやすいとされます。
関節唇損傷(かんせつしんそんしょう)
画像でも見落とされやすく、保存療法に限界がある場合があります。
経過が良好なことが多い病態
腱炎・滑液包炎(けんえん・かつえきほうえん)
炎症が主体で、適切な安静と鎮痛により経過が良好なことが多いとされます。
これらの病態は、画像診断によってのみ区別できます。画像診断は医療機関でしか行えません。 肩の強い痛みが続く場合は、自己判断せず、まず整形外科の受診をおすすめします。
痛みの科学 ― 我慢と中枢の痛み記憶
痛みは、体の傷んだ場所から脳へ一方的に届く信号、というだけのものではないと考えられるようになってきました。 近年の疼痛科学では、過剰な痛みを我慢し続けることが、脳に痛みの記憶(中枢性の感作〔かんさ〕)を残し、回復の妨げになる可能性が指摘されています。
わかりやすく言えば、痛みをこらえて無理を重ねるほど、脳が「ここは痛む場所だ」と覚え込んでしまい、 もとの炎症が落ち着いたあとも、痛みを感じやすい状態が長く続いてしまうことがある ―― と考えられています。 これはまだ研究の途上にある考え方であり、断定できるものではありませんが、 「痛みをただ我慢すればよい」という発想には慎重であるべき理由の一つとされています。
参考:痛みの慢性化や中枢性感作(中枢性の感作)に関する標準的な知見については、 慢性疼痛診療ガイドライン(厚生労働行政推進調査事業費補助金〔慢性の痛み政策研究事業〕研究班 監修/慢性疼痛診療ガイドライン作成ワーキンググループ 編、真興交易医書出版部、2021年)が参考になります。 なお、本文の記述は同ガイドラインの個別の記載を引用したものではなく、痛みの科学の一般的な考え方を当院がかみくだいて述べたものです。
二つの時代の対比 ― 動かすこと、痛みを伴わずに動かすこと
ここから先は、32年この仕事をしてきた一人の施術者としての経験的な見方です。 データで検証されたものではなく、私の臨床上の印象を含む点を、あらかじめお断りしておきます。
かつての五十肩診療は、画像診断で石灰化などの異常がなければ「湿布を出しておきます。なるべく動かしてください」の一言で診察が終わることが珍しくありませんでした。 リハビリも、痛みを我慢して動かす、いわばスパルタ的な要素があった時代です。 実際のところ、その時代の改善率は決して低くなかった ―― これは32年この仕事をしてきた私の実感です。
現在は「痛かったら無理をさせない」方針が主流になりました。痛みの科学の進歩を踏まえれば、これは正しい方向です。 ただ、私の臨床の肌感覚としては、改善のスピードが以前より落ちた、あるいは治癒までの期間が延びた印象も持っています。 これはデータで検証されたものではなく、あくまで一人の施術者の印象です。
この二つの時代から導かれる結論は、「動かすこと自体は正しかった。問題は、痛みを伴って動かすことだった」ということです。 痛みを抑えた状態で動かす ―― それを可能にする手段が、いまは揃いつつあります。
近年は24時間作用が持続するタイプの経皮吸収型消炎鎮痛剤も登場し、胃腸への負担などで飲み薬を使いにくかった方にも選択肢が広がっています。 お薬の選択や使い方は、必ず主治医・薬剤師にご相談ください。
理学療法で改善が進む人・進みにくい人
整形外科の保険リハビリテーションは、五十肩に対する合理的な第一選択です。 そのうえで、リハビリで改善が進みにくいケースがあるのも事実です。 ここで強調しておきたいのは、それは理学療法の質の問題ではなく、制度や構造の側にある制約によることが多い、ということです。
- 時間の制約 ― 運動器リハビリテーションは、20分を1単位として算定する仕組みのなかで提供されます。一回あたりに使える時間には、構造的な上限があります。
- 通院頻度・予約枠の確保 ― 施設の混雑や、就労されている方の時間帯の都合などにより、必要な頻度での通院や予約枠の確保が難しい場合があります。
- 算定期間(150日)の問題 ― 運動器リハビリテーションには算定期間(原則150日)があり、その期間を終えたあとにも症状が残ることがあります。
- 守備範囲の問題 ― リハビリの主目的は可動域・機能の回復にあります。そのため、夜間痛や、筋膜性の併存痛といった訴えが、リハビリの守備範囲の外側に残ることがあります。
これらはいずれも、現場の努力では埋めきれない、制度上の「器の形」によるものです。 五十肩という症状が、この器にきれいに収まる方もいれば、いくつかの理由で収まりきらない方もいる ―― という理解が、出発点になります。
停滞の典型パターン ― 32年の臨床でみてきたもの
では、どのような方がこの「器」に収まりにくいのか。 以下は、データで検証されたものではなく、リハビリで改善しきれなかった方々を32年間受け止めてきた、一人の施術者としての経験的な観察です。 その性質上、リハビリで順調に良くなった方は当院に来られないため、私に見えている範囲には偏りがあることを、先にお断りしておきます。
- 痛みに敏感な方 ― 私の実感として、停滞する方のなかで圧倒的に多いのがこのタイプです。 歯科治療がどうしても苦手、という方と共通の気質を感じることがよくあります。 大切なのは、痛みへの敏感さは生まれ持った個性であり、意志の弱さではないということです。 痛みを伴う運動はこうした方にとって続けにくく、前述の痛みの記憶の観点からも、無理に我慢させることが正解とは言えません。 「痛みを抑えた状態で動かす」という本ページの考え方が、最も意味を持つのもこのタイプの方です。
- 自主トレーニング(自宅での宿題)が続かない方 ― リハビリは施設での時間だけで完結するものではなく、自宅で行う運動の宿題が大きな比重を占める設計になっています。 これが続かないと、停滞が起きやすくなります。 ただ、続かない背景には多くの場合「痛い運動は避けたくなる」という、人として自然な反応があります。 つまりこの項目は、ひとつ目の「痛みへの敏感さ」と根がつながっています。
- 「治った」と感じた時点で残っている可動域制限 ― 過去に五十肩を経験し、ご本人は「治った」とおっしゃる一方で、調べてみると可動域の制限が残っている方が少なくありません。 日常生活がその範囲で回るようになると、制限があっても不便を感じなくなる ―― 人の適応力ゆえの現象で、そこでリハビリへの意欲が続かなくなるのは、むしろ自然なことです。
- 通いきれなかった方 ― 仕事や家庭との両立、予約枠の確保といった、前述の構造的な制約がそのまま通院の中断につながるパターンです。
これらはいずれも、ご本人の落ち度ではありません。 人として自然な反応や生活の事情が、制度の「器の形」と噛み合わなかった ―― それだけのことです。 当院が自費でお引き受けする際は、こうした背景を踏まえ、痛みに敏感な方の感受性に合わせて刺激量を調整しながら、残ったこわばりを整えることに取り組みます。
なお、当院では、肩が上がりにくい状態に対する機能訓練・リハビリの考え方を 当院の施術ページでも解説しています。
当院が担う局面(自費)
施設基準を満たす整形外科の理学療法で改善が見られないケース、リハビリ終了後も痛みが残るケースは、当院にご相談ください。 当院の五十肩施術は自費でのご提供です。 自費であるがゆえに、前述の併給制限とは無関係に、医科の治療と並行して受けていただけます。
当院が補完的に関わるのは、おもに次の局面です。
- 筋膜由来の併存痛への施術 ― 棘下筋・肩甲下筋・小円筋などのトリガーポイントによる関連痛が併存しているケース(「五十肩と診断されたが、痛みの一部が筋膜由来」と考えられる場合)です。
- リハビリ終了後・算定期間終了後の残存症状 ― 制度上の器を出たあとに残る痛み・こわばりへの対応です。
五十肩がきっかけで起こる、周辺筋の拘縮(二次的なこわばり)
肩に痛みがあると、人は無意識にその肩を動かさなくなります。 この「動かさない」状態が続くと、関節そのものの拘縮(凍結)とは別に、 肩を取り巻く棘下筋・棘上筋・肩甲下筋・小円筋といった回旋筋腱板(ローテーターカフ)や、肩甲帯の筋肉に、 二次的なこわばり(筋・筋膜レベルの拘縮)が積み重なっていくことがあります。
ここで知っておいていただきたいのは、炎症の痛みと、筋性のこわばりとでは、引いていくタイミングが少しずれるということです。 炎症が落ち着いたあとに、「肩がまだ動かしにくい・重い」と感じる時期が続くことがありますが、 これは回復が止まったわけでも、悪化のサインでもありません。 経過の中で自然に説明がつく、よくある段階のひとつです。
この時期の動かしにくさの一因として、周辺筋の二次的なこわばりが関わっている場合があります。 多くは回復期の経過とともに少しずつ戻っていくとされていますが、戻りがゆっくりなとき、 当院はこの炎症が落ち着いたあとに残る、筋性のこわばりの局面に補完的に関わります。
残存しやすい棘下筋のトリガーポイントと関連痛
五十肩の経過のなかで、とりわけ棘下筋(きょっかきん)は、 トリガーポイント(過敏な痛みの点)が残りやすい筋肉の一つとされています。 棘下筋のトリガーポイントは、その場所だけでなく、 肩の前面から上腕・前腕、ときに手首の方向まで関連痛を放散させることが、 Travell & Simons『トリガーポイント・マニュアル』などの筋・筋膜性疼痛の知見で説明されています。
「五十肩はもう治ったと言われたのに、肩の前や腕にだるさ・痛みが残る」―― そうした状態は、この棘下筋トリガーポイントによる関連痛として説明がつく場合があります。 歯の痛みに置き換えれば、原因の歯と痛む場所が違うことがあるのと同じで、 痛みを感じる場所(肩前面・腕)と、原因となる筋(背面の棘下筋)が離れているのが特徴です。
受診・来院の目安
本ページでご説明してきた内容を、ご自身の状態に当てはめるための目安です。
夜眠れないほどの強い痛み・じっとしていても痛む――炎症が主体の時期(炎症期)に出やすい症状です。 自己判断せず、まず整形外科を受診し、画像診断による鑑別と鎮痛のご相談を受けることをおすすめします。 当院は炎症症状に直接手を加えないことを施術方針の骨子としており、この時期には施術を行いません。
整形外科の保険リハビリテーションに通っている――そのまま主治医・理学療法士のもとで継続してください。 施設基準を満たす理学療法を健康保険で受けられることは、五十肩において最も合理的な第一選択だと当院は考えています。
炎症が落ち着いたのに、肩のこわばり・肩前面から腕への痛みやだるさが残っている―― リハビリ終了後や回復期に残るこの種の症状には、周辺筋の二次的なこわばりや棘下筋のトリガーポイントによる関連痛が関わっている場合があります。 当院が自費で補完的に関わるのは、この局面です。 初めての方へ(ご予約から施術当日の流れ)からご相談ください。
五十肩について ― よくあるご質問
ここに記載のないご質問は、お電話(0465-83-0380)でお気軽にお尋ねください。
Q1. 五十肩は自然に治りますか?
五十肩(肩関節周囲炎)は、炎症期・拘縮期・回復期という経過をたどり、時間の経過とともに軽快していくことが多いとされています。ただし重症例では、改善まで2年程度かかると解釈されることもあります。また、痛みの感じ方や痛みへの耐性には大きな個人差があり、経過の長さも一様ではありません。肩の強い痛みが続く場合は、自己判断せず、まず整形外科を受診し、画像診断による鑑別を受けることをおすすめします。
Q2. 五十肩のリハビリはどこで受けるのがよいですか?
当院は、まず整形外科の保険リハビリテーションから始めることをおすすめしています。近年、理学療法の施設基準を満たす整形外科の開院が増え、専門的な運動療法を健康保険(1〜3割負担)で受けられる環境が、以前とは比較にならないほど整いました。費用と通いやすさの現実を踏まえれば、五十肩はまず整形外科の保険リハビリテーションから始めるのが、お客様にとって最も合理的な選択だと当院は考えています。
Q3. 五十肩に健康保険のはり施術は使えますか?
はり施術は制度上、五十肩(肩関節周囲炎)が健康保険の対象疾患に含まれていますが、医師の同意書が必要であり、同一の症状について医療機関での治療と保険のはり施術を並行して受けることはできません(併給制限)。整形外科で治療できる症状について同意書の取得は現実的に難しく、五十肩で「保険のはり施術」という選択肢は実質的にほとんど機能していないのが実情です。当院の五十肩施術は自費でのご提供となります。
Q4. 夜、肩の痛みで眠れません。どうすればよいですか?
強い夜間痛は、炎症が主体の時期(急性期・炎症期)に出やすい症状とされています。まず整形外科を受診し、診察と鎮痛のご相談を受けることをおすすめします。痛みを我慢し続けることは、中枢に痛みの記憶を残し回復の妨げになる可能性も指摘されています。お薬の選択や使い方は、必ず主治医・薬剤師にご相談ください。なお、当院は炎症症状に直接手を加えないことを施術方針の骨子としており、炎症が主体の時期には施術を行いません。炎症が落ち着いたあとも残る痛みや筋膜性の併存痛、リハビリ終了後の残存症状については、当院(自費)でご相談いただけます。
Q5. リハビリを続けても良くなりません。
理学療法で改善が進みにくい背景には、20分1単位という算定上の時間制約、予約枠や通院頻度の確保が難しい場合があること、運動器リハビリテーションの算定期間(150日)終了後に症状が残ること、リハビリの主目的が可動域・機能回復であり夜間痛や筋膜性の併存痛が守備範囲の外側に残ることがあること、といった制度・構造上の要因が関係していることがあります。施設基準を満たす整形外科の理学療法で改善が見られないケース、リハビリ終了後も痛みが残るケースは、当院(自費)にご相談ください。
お問い合わせ・院情報
五十肩の経過のなかで残る痛み・こわばりについてのご相談・ご予約は、お電話またはLINEで承っております。 「自分の状態が当院の担う局面(炎症が落ち着いたあとの筋性のこわばり)に当てはまるか分からない」という段階でも、どうぞお気軽にお問い合わせください。
