五十肩(肩関節周囲炎)について ― まず整形外科、それでも残る痛みに― 足柄上郡 開成町の鍼灸・マッサージ|快晴鍼灸院(開成駅 西口 徒歩4分)
このページでは、五十肩のときに肩の中で何が起きているのかを、専門知識がなくても読み通せる言葉でご説明します。 言葉はやさしくしていますが、中身は医学的な知見にもとづいており、まだわかっていないことは「わかっていない」とお書きしています。 あわせて、当院がどの場面でお役に立てるのか、どの場面ではお引き受けしないのかもお伝えします。
当院の見解 ― まず整形外科受診と保険リハビリテーション
見た目は五十肩でも、実は腱が切れていたり、腱に石灰がたまっていたり、首の神経から痛みが来ていたりすることがあります。これらを見分けるのは医師の仕事です。医師は問診と診察(どの方向にどれだけ動くか、ご自身で動かしたときと人に動かしてもらったときで差があるか、力が入るか など)に、必要に応じてレントゲン・超音波・MRIなどの画像検査を組み合わせて判断します。診断をつけ、注射や薬で炎症を抑えられるのも医師だけです。 ですから、最初の一歩は整形外科の受診です。遠回りに見えて、これがいちばんの近道です。
原因がわかり、「動かして治していく段階」に入ったら、次は理学療法の施設基準を満たす整形外科でのリハビリです。専用の設備のもとで理学療法士が計画を立て、健康保険(1〜3割負担)で肩を動かしていくことができます。 当院は、まずこのリハビリを、主治医と理学療法士の計画どおりに十分受けていただくことをおすすめします。
くわしく:保険リハビリの「150日」とは
運動器リハビリテーションには、保険で請求できる日数に上限(原則150日)があります。数え始めるのは、発症した日・手術をした日・急に悪化した日、または最初に診断された日です。
誤解しやすいのは、これが保険の計算上の区切りだという点です。「150日を過ぎると体が回復しにくくなる」という意味ではありません。学校の学期が終わっても、学ぶことそのものが終わるわけではないのと同じです。実際、凍結肩は1〜3年かけて回復していくこともあり、150日の時点ではまだ回復の途中という方も少なくありません。
なお、150日を過ぎても、医師が「まだ良くなる見込みがある」と判断した場合などには、月13単位までを上限に続けられる仕組みや、そもそも上限の対象にならない場合があります。続けられるかどうかは、主治医にご確認ください。
当院の出番は、その先です。リハビリを続けても良くなり方が足踏みしている、あるいはリハビリを終えても動かしづらさや痛みが残っている――。標準的な治療を尽くしてもなお残った症状のうち、筋肉や筋膜(筋肉を包む膜)が原因と考えられる部分を、当院の自費施術でお引き受けします。 医師の診断と処置があってはじめて、安心して引き継ぐことができます。この順番を守るのは、役割を取り合うためではなく、お客様に回り道をさせず、安全に回復へ向かっていただくためです。
なお、はり施術は、制度のうえでは五十肩(肩関節周囲炎)も健康保険の対象に含まれています。ただし、医師の同意書が必要で、しかも同じ症状について、病院の治療と保険のはり施術を同時に受けることはできません(併給制限)。 整形外科で治療できる症状について同意書をいただくのは現実には難しく、五十肩で「保険のはり施術」を選ぶ道は、実際にはほとんど機能していません。 そのため、当院の五十肩の施術は自費となります。
※ 同意書・併給制限の詳しい仕組みについては、解説ページ「鍼灸・マッサージと健康保険(受領委任)」をご覧ください。
五十肩(凍結肩)の経過 ― 炎症期・拘縮期・回復期
「五十肩」は日常の言葉で、医療の場では肩関節周囲炎と呼ばれてきました。ただ、この呼び名はとても幅広く使われていて、 実際には中身の異なるいくつかの状態が、まとめて「五十肩」と呼ばれていることがあります。 たとえるなら、「おなかが痛い」という言葉の中に、胃の不調も腸の不調も含まれているようなものです。そこでまず、中身を四つに分けて整理します。
① 本来の凍結肩(せまい意味の五十肩)
肩の関節は、関節包(かんせつほう)という袋に包まれています。この袋が炎症を起こし、そのあと厚く硬くなって縮むために、どの方向にも動きにくくなる状態です。ご自身で動かしても、人に動かしてもらっても、同じところで止まるのが特徴です(とくに腕を外側へひねる動きが制限されやすくなります)。下でご説明する「三つの時期」は、この凍結肩の経過です。
② 肩のまわりの腱や袋の障害
腱板炎(腱板症)、肩峰下滑液包炎、肩峰下インピンジメント、上腕二頭筋長頭腱炎など。腕を上げる・ひねるといった特定の動きで痛むのが特徴で、人に動かしてもらうと比較的よく動くことが多く、凍結肩とは区別されます。
③ 構造的な損傷など
腱板断裂、関節唇損傷、石灰沈着性腱板炎、変形性肩関節症など。医療機関での診断と治療を優先すべき状態です。首の神経(頸椎)からの痛みが、肩の痛みとして感じられることもあります。
④ 筋肉・筋膜からの痛み
肩まわりの筋肉のこわばりや、トリガーポイント(押すと痛みが響く、過敏になった点)による痛みです。これだけで起こることもあれば、①〜③に重なって起こることもあります。当院が専門として関わるのは、おもにこの領域です。
蝶番がさびついていれば、誰が引いても開きません。これが①の凍結肩で、関節の袋そのものが硬くなっているため、ご自身で動かしても人に動かしてもらっても、同じように止まります。
一方、人に引いてもらえば開くのに、ご自身では開けられないなら、問題は「引く力」の側にあります。腕を持ち上げる腱が切れている腱板断裂などがこれにあたります。 医師が「ご自身で動かしたとき」と「人に動かしてもらったとき」を比べるのは、このためです(実際の判断は、これ以外の所見や画像検査も組み合わせて行われます)。
①〜④のどれに当たるのか、あるいはいくつかが重なっているのかは、医師の診察と、必要に応じた画像検査で判断されます。当院は診断を行いません。 ここから先、とくにお断りがない限り、「五十肩の経過」は①の凍結肩についてのお話です。
凍結肩は、はっきりしたきっかけがないのに肩が痛み出し、やがて腕が上がりにくくなり、そのあと時間をかけて少しずつ動く範囲が戻っていく――という経過をたどることが多いとされています。
一般に、この経過は次の三つの時期に分けて説明されます。
- 炎症期(急性期) ― 袋の炎症による痛みが強く出やすい時期です。じっとしていても痛む、夜中に痛みで目が覚める(夜間痛)、といった訴えが多くなるとされます。
- 拘縮期(こうしゅくき) ― 強い痛みは少しずつ引いていく一方で、炎症のあとの袋が硬く縮み、動かせる範囲(可動域)がせまくなることが目立ってくる時期です。
- 回復期 ― 硬くなった袋が少しずつゆるみ、動かせる範囲が戻っていく時期です。
五十肩でも、「痛み」が先に山を迎え、「硬さ」があとから追いかけてくる――この時間のずれを知っておくと、ご自身がいま経過のどのあたりにいるのかを考えやすくなります(下の図をご覧ください)。
五十肩は、時間とともに軽くなっていくことが多いと考えられています。 ただし、重い場合には改善まで2年ほどかかると考えられることもあり、かかる期間は人によってさまざまです。 英国で凍結肩の方を平均4年あまり追いかけた研究では、約6割の方はほぼ元どおりになった一方、約4割の方には何らかの症状(多くは軽い痛み)が残っていたと報告されています(Hand C ら, J Shoulder Elbow Surg 2008)。 つまり、「時間がたてば必ず完全に元どおりになる」とは言い切れない、ということです。 また、痛みの感じ方や、痛みへの強さには大きな個人差があり、同じ時期でも、つらさの程度は人によってかなり違います。
「肩が痛い=五十肩」とは限らない ― 見分けが必要な状態
肩の痛みが、すべて凍結肩というわけではありません。 見た目や症状が似ていても、その奥に別の状態が隠れていることがあります。 ここでは、冒頭の整理の②③にあたるもののうち、整形外科で一般に知られている代表的なものをご紹介します。
医療機関での診断・治療を優先すべき状態
腱板断裂(けんばんだんれつ)
肩を動かす腱が切れてしまった状態で、切れた腱は自然にはつながりません。そのままにしておくと切れ目が広がることがあり、手術が検討される場合もあります。凍結肩とは違い、人に動かしてもらうと腕が上がるのに、ご自身では上げにくい・力が入らない、ということがあります(上のドアのたとえでいう「引く力」の問題です)。
関節唇損傷(かんせつしんそんしょう)
肩の関節の受け皿のふちを取り囲む、軟骨のような組織(関節唇)が傷ついた状態です。画像でも見つけにくいことがあり、リハビリなどの保存療法だけでは限界がある場合があります。
石灰沈着性腱板炎
腱の中にたまったカルシウムの結晶(石灰)がもとで、急に激しい痛みが出ることがあります。レントゲンなどで確認され、注射などの処置が行われます。
多くは保存療法(リハビリ・痛み止めなど)で経過をみる状態
腱炎・滑液包炎(けんえん・かつえきほうえん)
腱板炎・肩峰下滑液包炎・上腕二頭筋長頭腱炎など。肩にかかる負担を調整し、痛みを抑えながらリハビリを行うことで、経過が良いことが多いとされます。
肩峰下インピンジメント
腕を上げたときに、肩の骨(肩峰)の下で腱や袋が挟み込まれて痛む状態です(しくみは次の章で図とともにご説明します)。多くはまず運動療法などの保存療法が行われますが、骨の形や腱板の働き方が背景にあると、くり返しやすいこともあります。
五十肩の痛みはどこから来るのか ― 痛みの源と、残りやすい痛み
整形外科での見分けを前提に、ここでは五十肩の痛みが「どこから来るのか」を、体のしくみから整理します。
痛みの源は一つとは限らない ― いくつかの組織が関わります
「五十肩」と呼ばれる肩の痛みでは、痛みの出どころは一か所とは限りません。代表的なものは次の四つです。 ただし冒頭の整理のとおり、これらは本来それぞれ別の状態です。 日本整形外科学会の解説でも、上腕二頭筋長頭腱炎や石灰沈着性腱板炎などは、五十肩と区別が必要なものとして挙げられています。
- 関節包炎(かんせつほうえん) ― 関節を包む袋(関節包)の炎症です。凍結肩で肩が固まる(拘縮)、その中心となる変化です。
- 腱板炎(けんばんえん) ― 肩を内側から支える筋肉のまとまり(回旋筋腱板=ローテーターカフ)の、腱の炎症です。とくに棘上筋の腱によくみられます。
- 肩峰下滑液包炎(けんぽうかかつえきほうえん) ― 肩の動きを滑らかにする、クッションのような袋(肩峰下滑液包)の炎症です。
- 上腕二頭筋長頭腱炎(じょうわんにとうきんちょうとうけんえん) ― 力こぶの筋肉(上腕二頭筋)の腱の炎症です。肩の前側の痛みとしてよくみられます。
これらは一つだけで起こることも、いくつか重なって起こることもあり、どこが痛みに関わっているかは人によって違います。 医師の診察と、必要に応じた画像・超音波検査でこれらの状態を確かめ、腱板断裂・関節唇損傷など、医療機関での治療を優先すべき状態と見分けることが出発点です。 肩の強い痛みが続くときは、ご自身で判断せず、まず整形外科を受診してください。
痛みが起こるしくみの一例 ― 肩の骨の下での挟み込み(インピンジメント)
こうした炎症が起こるしくみの一例が、肩の骨の下での「挟み込み(噛み込み)」です。 肩の骨組みを、上下二つの部品で考えてみてください。 下には、腕の骨のてっぺんにある丸い頭(上腕骨頭)があります。上には、肩峰(けんぽう)という肩の骨の出っ張りと、烏口肩峰靭帯(うこうけんぽうじんたい)がつくる「天井」があります。 その天井と骨頭のあいだの、わずかなすき間(肩峰下スペース)を、棘上筋(きょくじょうきん)の腱や肩峰下滑液包(けんぽうかかつえきほう)が通っています。 腕を上げる途中で、このすき間はさらにせまくなります。そのとき腱や袋が挟み込まれ、押しつぶされたり刺激されたりすると、 痛みや「引っかかる」感じにつながることがあると考えられています。 これは、1972年に整形外科医のニアー(Neer)が提唱した、「インピンジメント(衝突)」と呼ばれるしくみです。
※簡易概念図。解剖学の精細図ではありません。 Concept & Direction: Takahito Kubota × AI ©
肩を動かしたときの痛みを確認するテスト ― ニアーテストとホーキンス・ケネディテスト
腕を上げたときに痛みが出る場合、上でご説明した肩の骨の下のすき間で、腱や袋(滑液包)が挟み込まれていることがあります。 その可能性を確かめる目安として、当院では「ニアーテスト」や「ホーキンス・ケネディテスト」という、手で行う検査を用いることがあります。 どちらも、わざとすき間がせまくなる姿勢をとって、ふだんの痛みが出るかどうかを見る検査です。
- ニアーテスト ― 腕を内側にひねった状態で、前からゆっくり持ち上げていき、上げる途中や上げきったところで肩に痛みが出るかを確かめます。上の解説に登場した整形外科医ニアーの名がついた検査です。
- ホーキンス・ケネディテスト ― 腕を前に上げ、ひじを曲げた状態から腕を内側へひねり、肩の前や外側に痛みが出るかを確かめます。
どちらも、肩の骨の下で腱などが挟み込まれる「インピンジメント」が起きている可能性を考えるための、一つの目安にすぎません。 テストで痛みが出たからといって、原因を一つに決めることはできません。反対に、痛みが出なかったからといって、問題がないとも言い切れません。 同じように痛みが出る状態の中には、腱板断裂など、医師の診察や画像検査で確かめる必要があるものも含まれます。 そのため当院では、肩の動く範囲、痛む場所、ふだんの動作、首からの影響などもあわせて確かめ、痛みの出どころを整理していきます。 そのうえで、当院の施術で対応できる状態か、整形外科で画像による確認を先に受けていただくべき状態かを判断し、後者であればその旨をはっきりお伝えします。 なお、痛みの強い時期に、痛みをわざと引き出すこうしたテストを無理に行うことはありません。
くわしく:専門用語メモ(ニアーテスト・ホーキンス・ケネディテスト)
ニアーテスト(Neer test)は、肩甲骨を押さえたまま、内旋位の上肢を他動的に挙上して肩峰下の疼痛誘発をみる検査です。ホーキンス・ケネディテスト(Hawkins-Kennedy test)は、肩関節90°屈曲・肘90°屈曲位から肩関節を内旋させ、大結節を烏口肩峰アーチの下へ押し込んで疼痛誘発をみる検査です。いずれも肩峰下インピンジメントの徒手検査として広く用いられていますが、系統的レビュー・メタ分析では単独での診断的価値は限られると報告されており(Hegedus EJ ら, Br J Sports Med 2012)、陽性でも病態を確定できず、陰性でも除外できません。また凍結肩で可動域制限が強い時期には、関節包の拘縮そのものでも挙上・内旋時に痛みが出るため、結果の解釈はいっそう慎重になります。当院では複数の所見を組み合わせて、施術の対象とするか、整形外科での画像による確認を先にお勧めするかの判断材料として用います。
このあとご説明するトリガーポイントによる関連痛は、これらの炎症とは別のしくみで起こる痛みです。当院では、炎症が落ち着いたあとにも残っていることがある、もう一つの痛み(併存痛)として捉えています。
五十肩がきっかけで起こる、周りの筋肉のこわばり(二次的な拘縮)
肩が痛むと、人は無意識のうちにその肩をかばい、動かさなくなります。 この「動かさない」状態が続くと、関節の袋そのものの硬さ(凍結)とは別に、肩を取り巻く筋肉―― 肩を内側から支える4つの筋肉(回旋筋腱板=ローテーターカフ)や、肩甲骨まわりの筋肉――にも、 あとから二次的なこわばり(筋肉・筋膜のレベルの拘縮)が積み重なっていくことがあります。 ギプスを外したばかりの腕や脚が、しばらくぎこちなく動かしにくいのと、似たところがあります。
くわしく:専門用語メモ(回旋筋腱板と二次的筋緊張)
回旋筋腱板(rotator cuff)は棘上筋・棘下筋・肩甲下筋・小円筋の4筋で構成され、肩関節の動的安定と回旋・外転に関与します。疼痛回避による不動が続くと、これらの腱板筋および肩甲帯筋(僧帽筋・菱形筋・肩甲挙筋・大円筋・広背筋)に二次的な筋緊張やトリガーポイントが生じ得ると考えられています。関節包そのものの拘縮とは病態が異なり、筋・筋膜由来の成分は用手的アプローチの対象となり得ます。棘下筋のトリガーポイントの関連痛パターンとしては、肩関節前面の深部〜上腕前外側・前腕橈側・手方向への放散が Travell & Simons により記載されています。一方で、トリガーポイントの成り立ちや触診による同定の信頼性には議論があり、超音波などの画像で確定する方法も確立していません。本ページの説明は、この限界を踏まえた臨床的な整理です。
ここで知っておいていただきたいのは、炎症の痛みと、筋肉のこわばりとでは、引いていくタイミングが少しずれるということです。 炎症が落ち着いたあとも、「肩がまだ動かしにくい」「重たい」と感じる時期が続くことがあります。 けれどもそれは、回復が止まったわけでも、悪くなっているサインでもありません。 経過の中で自然に説明がつく、よくある段階の一つです。
この時期の動かしにくさには、周りの筋肉の二次的なこわばりが関わっている場合があります。 多くは回復期の流れの中で少しずつ戻っていくとされていますが、戻り方がゆっくりなとき、 当院はこの炎症が落ち着いたあとに残る、筋肉のこわばりに補完的に関わります。
肩の痛みで注目される、棘下筋のトリガーポイントと関連痛
肩甲骨の裏側にある棘下筋(きょくかきん)は、肩の痛みに関わるトリガーポイント(押すと痛みが響く、過敏になった点)が見つかりやすい筋肉の一つです。 慢性的な肩の痛みがある72人を調べたオランダの研究では、約8割(77%)の方の棘下筋に、ふだんの痛みを再現するトリガーポイントが見つかったと報告されています(Bron C ら, BMC Musculoskelet Disord 2011)。 ただしこの研究は凍結肩の方だけを調べたものではなく、トリガーポイントの数と肩の不自由さとの関係も、中くらいの強さにとどまっていました。
棘下筋のトリガーポイントは、その場所だけでなく、 肩の前の奥から二の腕、ひじから先、ときには手のほうまで、離れた場所に痛みを響かせることがあります(関連痛)。 このことは、Travell & Simons『トリガーポイント・マニュアル』に記載されています。
「五十肩はもう治ったと言われたのに、肩の前や腕にだるさ・痛みが残っている」―― そうした状態の一部は、この棘下筋のトリガーポイントによる関連痛で説明がつく場合があります。 痛みを感じる場所(肩の前・腕)と、原因となる筋肉(背中側の棘下筋)が離れているのが特徴です。
ただし、肩の前や腕の痛みは、上腕二頭筋の腱の炎症、腱板の障害、首の神経(頸椎)からの痛みなどでも起こります。 「腕まで響く=筋肉のせい」とご自身で決めてしまわず、しびれや力の入りにくさを伴う場合は、まず医療機関で確かめてください。 当院では、医療機関での評価を前提に、筋肉を押したときにふだんの痛みが再現されるか、などを確かめながら判断します。 なお、トリガーポイントの成り立ちや見つけ方については、研究者のあいだでも議論が続いています。本ページの説明は確立した診断基準ではなく、臨床上の一つの見方としてお読みください。
痛みの科学 ― 長引く痛みと「中枢性感作」
痛みは、「傷ついた場所から脳へ、信号が一方通行で届くもの」というだけではない、と考えられるようになってきました。 強い痛みの信号が長く続くと、脊髄や脳といった、痛みを受け取って処理する神経のしくみそのものが敏感になり、本来なら痛くない程度の刺激でも痛みを感じやすくなることがあります。これを中枢性感作(ちゅうすうせいかんさ)と呼び、「痛みの記憶」とたとえられることもあります。
中枢性感作は、さまざまな慢性の痛みとの関わりが調べられている現象です。長引く肩の痛みでも、一部の方で痛みの感じ方の変化(押されたときに痛みを感じやすくなっている など)が報告されています。 一方で、「痛みを我慢したこと」が直接の原因で中枢性感作が起こり、五十肩の回復が遅れるということが、研究で確かめられているわけではありません。 そのため当院は、これを断定ではなく、「強い痛みを長く放っておかないほうがよい」と考える理由の一つとしてお伝えしています。 夜も眠れないほどの痛みがあるときは、我慢を重ねるより、医師に痛みの抑え方を相談するほうが理にかなっています。
くわしく:専門用語メモ(中枢性感作)
反復する侵害入力により脊髄後角ニューロンの応答が増幅され(wind-up)、NMDA受容体を介した長期増強(LTP)様のシナプス可塑性が痛覚伝達路に生じる現象を中枢性感作(central sensitization)と呼びます。これにより痛覚過敏(hyperalgesia)やアロディニア(非侵害刺激での痛み)が生じ、末梢の炎症が消退したあとも疼痛が残存し得ます。慢性の肩痛でも一部の患者で感作を示唆する所見(圧痛閾値の低下など)が報告されていますが(Borstad J ら, Braz J Phys Ther 2015 ほか)、凍結肩に限定した知見はまだ限られており、炎症期の疼痛の「我慢」と中枢性感作・予後との因果関係は確立していません。本ページでは、回復期以降の疼痛残存の背景として考えられる要因の一つ(仮説)として扱っています。国際疼痛学会(IASP)は2017年、この機序が主体となる痛みを nociplastic pain(日本語訳「痛覚変調性疼痛」)として第3のカテゴリーに位置づけました。
なお、長く続く痛みが睡眠や自律神経の調子と互いに影響し合うことについては、自律神経の乱れ・不調のページでも触れています。
参考:痛みの慢性化や中枢性感作(中枢性の感作)に関する標準的な知見については、 慢性疼痛診療ガイドライン(厚生労働行政推進調査事業費補助金〔慢性の痛み政策研究事業〕研究班 監修/慢性疼痛診療ガイドライン作成ワーキンググループ 編、真興交易医書出版部、2021年)が参考になります。 なお、本文の記述は同ガイドラインの個別の記載を引用したものではなく、痛みの科学の一般的な考え方を当院がかみくだいて述べたものです。
二つの時代の対比 ― 動かすこと、痛みを伴わずに動かすこと
ここから先は、この仕事を32年続けてきた一人の施術者としての、経験にもとづく見方です。 データで確かめられたものではなく、私の臨床上の印象を含むことを、はじめにお断りしておきます。
かつての五十肩の診療では、画像に石灰などの異常がなければ、「湿布を出しておきます。なるべく動かしてください」のひと言で診察が終わることが珍しくありませんでした。 リハビリも、痛みを我慢して動かす、いわば「スパルタ式」の面があった時代です。 それでも、その時代の改善率は決して低くはなかった――というのが、32年間この仕事をしてきた私の実感です。
いまは「痛いときは無理をさせない」という考え方が主流です。痛みの科学の進歩を踏まえれば、これは正しい方向です。 ただ、私の臨床の肌感覚としては、改善のスピードが以前より落ちた、あるいは治るまでの期間が延びた、という印象もあります。 くり返しになりますが、これはデータで確かめたものではなく、一人の施術者の印象です。
この二つの時代を並べてみると、一つの結論が浮かび上がります。「動かすこと自体は正しかった。問題は、痛みを伴って動かしていたことだった」ということです。 では、痛みを抑えたまま動かすにはどうすればよいのか。それを可能にする手段が、いまは揃いつつあります。
近年は、長く効くタイプの貼り薬(皮膚から吸収されるタイプ)など、炎症や痛みを抑える薬の選択肢も広がりました。 飲み薬が使いにくかった方にも、合う方法が見つかりやすくなっています。 ただし、痛み止めは種類によって体質や持病との向き不向きがあり、どれを選ぶかには医師の判断が必要です。 お薬の選択や使い方は、必ず主治医・薬剤師にご相談ください。
理学療法で改善が進む人・進みにくい人
整形外科の保険リハビリは、五十肩に対する合理的な第一選択です。 そのうえで、リハビリを続けても改善が進みにくい方がいらっしゃるのも事実です。 ここで強調しておきたいのは、それが理学療法の質の問題ではなく、制度やしくみの側にある制約によることが多い、という点です。
- 時間の枠 ― 運動器リハビリは、20分を1単位として計算するしくみの中で行われます。1回あたりに使える時間には、制度上の上限があります。
- 通院の頻度・予約枠 ― 施設の混み具合や、お仕事をされている方の時間の都合などにより、必要な頻度で通うことや、予約枠を確保することが難しい場合があります。
- 150日の上限 ― 運動器リハビリには、保険で請求できる日数の上限(原則150日)があります。医師の判断で月13単位まで続けられる場合などもありますが、通う回数や時間は減りやすくなります。凍結肩の経過がそれより長く続く場合には、症状が残ったままリハビリが一区切りとなることがあります。
- 優先順位 ― 理学療法でも痛みへの対応は行われますが、限られた時間の中では、動く範囲や機能の回復が優先されることが多くなります。そのため、筋膜からの痛みのように、時間をかけて一人ひとり探っていく必要がある痛みには、十分な時間を割きにくい場合があります。なお、強い夜間痛は、まず医師に痛みを抑えてもらう対象です。
これらはいずれも、現場の努力だけでは埋めきれない、制度という「器の形」によるものです。 五十肩という症状がこの器にきれいに収まる方もいれば、いくつかの理由で収まりきらない方もいる――そう理解することが出発点になります。
停滞の典型パターン ― 32年の臨床でみてきたもの
では、どのような方がこの「器」に収まりにくいのか。 以下は、データで確かめられたものではなく、リハビリで改善しきれなかった方々を32年間お引き受けしてきた、一人の施術者としての経験にもとづく観察です。 リハビリで順調に良くなった方はそもそも当院にいらっしゃらないため、私に見えている範囲には偏りがあることを、先にお断りしておきます。
- 痛みに敏感な方 ― 私の実感として、停滞する方のなかで圧倒的に多いのがこのタイプです。 歯科治療がどうしても苦手、という方と共通の気質を感じることがよくあります。 大切なのは、痛みへの敏感さは生まれ持った個性であり、意志の弱さではないということです。 痛みを伴う運動はこうした方にとって続けにくく、前述の痛みの記憶の観点からも、無理に我慢させることが正解とは言えません。 「痛みを抑えた状態で動かす」という本ページの考え方が、最も意味を持つのもこのタイプの方です。
- 自主トレーニング(自宅での宿題)が続かない方 ― リハビリは施設で過ごす時間だけで完結するものではなく、ご自宅で行う運動の宿題が大きな比重を占めるように組み立てられています。 これが続かないと、停滞が起きやすくなります。 ただ、続かない背景には多くの場合、「痛い運動は避けたくなる」という、人として自然な反応があります。 つまりこの項目は、一つ目の「痛みへの敏感さ」と根っこでつながっています。
- 「治った」と感じた時点で残っている動かせる範囲の狭まり ― 過去に五十肩を経験し、ご本人は「治った」とおっしゃる一方で、調べてみると可動域の制限が残っている方が少なくありません。 日常生活がその範囲で回るようになると、制限があっても不便を感じなくなる ―― 人の適応力ゆえの現象で、そこでリハビリへの意欲が続かなくなるのは、むしろ自然なことです。
- 通いきれなかった方 ― 仕事や家庭との両立、予約枠の確保といった、前述の構造的な制約がそのまま通院の中断につながるパターンです。
これらはいずれも、ご本人の落ち度ではありません。 人として自然な反応や生活の事情が、制度の「器の形」と噛み合わなかった ―― それだけのことです。 当院が自費でお引き受けする際は、こうした背景を踏まえ、痛みに敏感な方の感受性に合わせて刺激量を調整しながら、残ったこわばりを整えることに取り組みます。
なお、当院では、肩が上がりにくい状態に対する機能訓練・リハビリの考え方を 当院の施術ページでも解説しています。
当院が担う局面(自費)
施設基準を満たす整形外科の理学療法で改善が見られないケース、リハビリ終了後も痛みが残るケースは、当院にご相談ください。 当院の五十肩の施術は自費です(料金は施術メニュー・料金をご覧ください)。 自費のため、前にご説明した併給制限には当たらず、病院での治療と並行して受けていただけます。
当院が補完的に関わるのは、おもに次の局面です。
- 筋膜からの痛みが重なっている場合 ― 棘下筋・肩甲下筋・小円筋などのトリガーポイントによる関連痛が重なっているケースです(「五十肩と診断されたが、痛みの一部は筋膜から来ている」と考えられる場合)。
- リハビリを終えたあとに残る症状 ― 日数の上限などでリハビリが一区切りとなったあとに残る痛み・こわばりのうち、筋肉・筋膜が原因と考えられる部分への対応です(腱板断裂など、医療機関での治療が必要な状態が疑われる場合は、受診をおすすめします)。
いずれも、「五十肩の痛みはどこから来るのか」でご説明した、炎症が落ち着いたあとに残る筋肉の要素(周りの筋肉の二次的なこわばり・棘下筋のトリガーポイントによる関連痛)に対応するものです。
受診・来院の目安
ここまでの内容を、ご自身の状態に当てはめていただくための目安です。
夜も眠れないほど強く痛む・じっとしていても痛む――炎症が中心の時期(炎症期)に出やすい症状です。 ご自身で判断せず、まず整形外科を受診し、診察(必要に応じて画像検査)による見分けと、痛みの抑え方のご相談を受けてください。 当院は炎症に直接手を加えないことを施術方針の骨子としており、この時期には施術を行いません。
整形外科の保険リハビリに通っている――そのまま主治医・理学療法士のもとで続けてください。 施設基準を満たす理学療法を健康保険で受けられることは、五十肩において最も合理的な第一選択だと当院は考えています。
炎症は落ち着いたのに、肩のこわばりや、肩の前から腕への痛み・だるさが残っている―― リハビリを終えたあとや回復期に残るこうした症状には、周りの筋肉の二次的なこわばりや、棘下筋のトリガーポイントによる関連痛が関わっている場合があります。 当院が自費で補完的に関わるのは、この局面です。 初めての方へ(ご予約から施術当日の流れ)からご相談ください。
やさしい用語集 ― このページの言葉を、ひとことで
本文に出てくる専門的な言葉を、やさしく言い換えてまとめました。
- 五十肩(肩関節周囲炎)/凍結肩
- はっきりした原因なく肩が痛み、腕が上がりにくくなる状態。多くは時間とともに少しずつ動く範囲が戻ります。
- 関節包(かんせつほう)
- 関節をすっぽり包んでいる袋。凍結肩では、この袋が炎症を起こしたあと、厚く硬くなって縮みます。
- 炎症期・拘縮期・回復期
- 凍結肩の三つの時期。「痛みが強い時期」→「硬さが目立つ時期」→「動きが戻っていく時期」の順に進みます。
- 拘縮(こうしゅく)
- 関節や筋肉がこわばって、動かせる範囲がせまくなること。「凍結」とも呼ばれます。
- 回旋筋腱板(ローテーターカフ)
- 肩を支える、奥にある4つの筋肉(棘上筋・棘下筋・肩甲下筋・小円筋)のまとまり。腕を回す動きを助けます。
- インピンジメント(衝突・噛み込み)
- 腕を上げるとき、肩の天井と骨のあいだの狭いすき間に、腱や袋が挟み込まれて痛むこと。
- トリガーポイント
- 筋肉の中にできる「しこり」。離れた場所(肩の前や腕)に痛みを飛ばすことがあります。
- 関連痛(かんれんつう)
- 痛みを感じる場所と、その原因の場所がずれること。背中の筋肉のしこりが腕の痛みを起こす、など。
- 中枢性感作(ちゅうすうせいかんさ)
- 強い痛みが長く続くことなどで、痛みを処理する神経(脊髄や脳)が過敏になり、痛みを感じやすくなった状態。「痛みの記憶」とたとえられることも。
五十肩について ― よくあるご質問
ここに記載のないご質問は、お電話(0465-83-0380)でお気軽にお尋ねください。
Q1. 五十肩は自然に治りますか?
五十肩(肩関節周囲炎)は、炎症期・拘縮期・回復期の順に経過し、時間とともに軽くなっていくことが多いとされています。ただし、重い場合は改善まで2年ほどかかると考えられることもあり、英国の研究では約4割の方に何らかの症状(多くは軽い痛み)が残っていたと報告されています。痛みの感じ方にも大きな個人差があり、経過の長さは人によってさまざまです。肩の強い痛みが続くときは、ご自身で判断せず、まず整形外科で医師の診察(必要に応じて画像検査)を受けてください。
Q2. 五十肩のリハビリはどこで受けるのがよいですか?
当院は、まず整形外科の保険リハビリから始めることをおすすめしています。近年は理学療法の施設基準を満たす整形外科が増え、専門的な運動療法を健康保険(1〜3割負担)で受けられる環境が、以前とは比べものにならないほど整いました。費用と通いやすさを考えれば、これがお客様にとって最も合理的な選択だと当院は考えています。
Q3. 五十肩に健康保険のはり施術は使えますか?
制度のうえでは、五十肩(肩関節周囲炎)もはり施術の健康保険の対象に含まれています。ただし医師の同意書が必要で、同じ症状について病院の治療と保険のはり施術を同時に受けることはできません(併給制限)。整形外科で治療できる症状について同意書をいただくのは現実には難しく、五十肩で「保険のはり施術」を選ぶ道は、実際にはほとんど機能していません。当院の五十肩の施術は自費となります。
Q4. 夜、肩の痛みで眠れません。どうすればよいですか?
強い夜間痛は、炎症が中心の時期(急性期・炎症期)に出やすい症状とされています。まず整形外科を受診し、診察を受けたうえで痛みの抑え方を相談してください。強い痛みが長く続くと、神経が痛みに敏感になること(中枢性感作)があるとされています。我慢との因果関係は確かめられていませんが、当院は、強い痛みを長く我慢し続けないほうがよいと考えています。お薬の選び方や使い方は、必ず主治医・薬剤師にご相談ください。なお、当院は炎症に直接手を加えないことを施術方針の骨子としており、炎症が中心の時期には施術を行いません。炎症が落ち着いたあとに残る痛みや筋膜からの痛み、リハビリを終えたあとに残る症状については、当院(自費)でご相談いただけます。
Q5. リハビリを続けても良くなりません。
リハビリで改善が進みにくい背景には、制度やしくみの側の事情が関わっていることがあります。たとえば、20分を1単位とする時間の枠があること、予約枠や通院の頻度を確保しにくい場合があること、保険で請求できる日数に上限(原則150日。医師の判断で月13単位まで続けられる場合などもあります)があり、症状が残ったまま一区切りとなることがあること、限られた時間の中では動く範囲や機能の回復が優先され、筋膜からの痛みなどに十分な時間を割きにくい場合があること、です。施設基準を満たす整形外科の理学療法で改善が見られない場合や、リハビリを終えても痛みが残る場合は、当院(自費)にご相談ください。
五十肩・肩の痛みでお越しいただける地域 ― 足柄上郡 開成町からのアクセス
快晴鍼灸院は神奈川県足柄上郡開成町吉田島(〒258-0021)にあります。小田急小田原線開成駅 西口から徒歩4分、マックスバリュのすぐ近く・大村楽器店(ヤマハ音楽教室)さんの向かいで、玄関前に駐車場を1台完備しています。電車でも車でも通いやすい立地のため、開成町はもちろん、足柄上郡一帯や周辺市から、五十肩・肩の痛みにお悩みの方がご来院されています。
各エリアからの所要時間の目安(お車・実測平均)
- 開成町・足柄上郡 大井町(上大井駅周辺)― 約8〜10分/東名・大井松田ICから6〜8分
- 足柄上郡 松田町(新松田駅周辺)― 約7〜9分
- 足柄上郡 山北町(山北駅周辺)― 約14〜16分
- 南足柄市(和田河原駅・大雄山駅・塚原駅周辺)― 約4〜10分
- 小田原市(栢山駅周辺)― 約3〜5分/小田原駅から約30分(小田急線では開成駅まで電車で約15分)
「五十肩・肩の痛みを相談できる鍼灸院を、開成町・足柄上郡の近くで探している」という方は、まずお気軽にご相談ください。詳しい道順・地図・駐車場のご案内はアクセスページに掲載しています。
お問い合わせ・院情報
五十肩の経過のなかで残る痛み・こわばりについてのご相談・ご予約は、お電話またはLINEで承っております。 「自分の状態が当院の担う局面(炎症が落ち着いたあとの筋性のこわばり)に当てはまるか分からない」という段階でも、どうぞお気軽にお問い合わせください。